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5回目の妊婦健診は妊娠24週~25週で行われます。
5回目の妊婦健診から妊婦健診の間隔が2週間毎になります。
当院ではこの時期に妊娠中期の妊娠糖尿病のスクリーニング検査を行います。
妊娠中期の妊娠糖尿病のスクリーニング検査には、食後血糖値を用いる方法と50gGCTという糖負荷検査を用いる方法があります。
50gGCTの方が精度が高いと報告されていますので、当院では50gGCTを用いた方法で妊娠糖尿病のスクリーニングを行っています。
では、5回目の妊婦健診の内容について解説していきます。

妊娠中の高血糖は、妊娠高血圧症候群、羊水過多(羊水が異常に多くなること)などのリスクが上がります。
また、赤ちゃんは巨大児、多血症とそれに伴う高ビリルビン血症(新生児黄疸)、新生児低血糖や呼吸窮迫症候群(肺が膨らみにくくなる状態)などのリスクが上がります。
妊娠糖尿病をしっかり診断して、血糖コントロールを行うことで、これらの合併症のリスクを減少することができます。

妊娠糖尿病のスクリーニングは、妊娠初期と妊娠中期に2段階で行います。
1回目の妊婦健診には血糖検査も含まれています。随時血糖が100mg/dL以上の場合には、妊娠前から糖尿病がないかどうかを調べるために、HbA1cの測定を行います。
随時血糖値が126mg/dL以上の場合やHbA1c値(NGSP)≧6.5%の場合には、妊娠前から糖尿病があったことを疑います。
しかし、糖尿病の診断は分娩後に行う必要がありますので、この時点では”妊娠中の明らかな糖尿病”という診断になります。
妊娠中期の妊娠糖尿病のスクリーニングは、妊娠24週頃に50gGCTを用いて行います。
50gGCTとは、食事時間と関係なく、50gのブドウ糖の入った炭酸水を飲んでもらい、その60分後に血糖値を測定する検査です。
血糖値が140mg/dL以上の場合には50gGCT陽性となりますので、妊娠糖尿病の精密検査の対象となります。
妊娠糖尿病の診断には、75gOGTTを行います。
この検査は絶食状態で行う必要がありますので、前日からの準備が必要です。
当院では、前日の22時以降は食事は控えてもらい、また、糖分の入った飲み物も控えてもらっています。
もちろん糖分の入っていないお茶や水は摂取可能です。朝食も食べずに来院して、まず空腹時(負荷前)の採血を行います。
その後に75gのブドウ糖が入った炭酸水を飲んでもらいます。その60分後と120分後に血糖値測定を行います。
75gOGTTの基準値は、

・負荷前血糖値:92mg/dL
・60分後血糖値:180mg/dL
・120分後血糖値:153mg/dLです。
血糖値が1つでも超えてしまうと妊娠糖尿病と診断されます。
但し、120分後血糖値が200mg/dLを超える場合や、HbA1cが6.5%を超える場合には、ハイリスクな妊娠糖尿病が考えられます。
その場合にはインスリンを使用した治療が必要となる可能性が高いため、当院では速やかに総合病院の糖尿病内科を紹介しています。

妊娠糖尿病の治療法は、まずは食事療法になります。
食事療法のエネルギー量の計算方法は、エネルギー量(kcal)=標準体重(身長(m)×身長(m)×22 kg)×30となります。
妊娠による付加量として、妊娠初期は+50kcal、中期は+250kcal、末期は+450kcalとなります。
身長が155cmの妊婦さんだと、食事療法のエネルギー量は、妊娠初期が約1600kcal、妊娠中期が約1800kcal、妊娠後期が2000kcalとなります。
但し、肥満妊婦さんは付加量はありませんので、全妊娠期間を通してエネルギー量は1600kcalとなります。

血糖コントロールの評価の方法は、高血糖のリスクによって異なります。
高血糖のハイリスク因子として指摘されている項目は
・妊娠中の明らかな糖尿病
・ハイリスク妊娠糖尿病
HbA1c<6.5%で75gOGTT2時間値≧200mg/dL
・75gOGTTが2項目以上基準値を超える
・75gOGTTが1項目基準値を超える、かつ、非妊時BMI≧25
となっています。
これらの項目を満たす場合には、高血糖のリスクの高い妊娠糖尿病と考えられますので、血糖自己測定(SMBG)を行います。
血糖値の目標値は、
食前血糖値:95 mg/dL未満
食後2時間血糖値:120mg/dL未満 です。
毎日、朝食前・毎食2時間後の血糖値を測定してもらい、お渡しするノートに記載してもらって、毎回診察の際に評価をしていきます。
毎日4回の血糖値測定をするのはとても大変ですが、赤ちゃんの合併症を減らすためにぜひ頑張ってもらいたいです。
血糖自己測定(SMBG)の値が高い場合には食事療法のみでは血糖コントロール不良と判断し、食事療法の再評価と血糖コントロール目的に総合病院の糖尿病内科を紹介しています。
食事療法のみで血糖コントロールが悪い場合には、妊娠中には内服薬は使用できないためインスリン療法が選択されます。
血糖自己測定(SMBG)を行うほどハイリスクと考えられない妊娠糖尿病の妊婦さんは、当院では以下のように管理を行っています。
血糖コントロールの指標として2週間毎の食後2時間血糖値とグリコアルブミンの測定を行っています。
コントロール目標として、食後2時間血糖値<120mg/dL、グリコアルブミン≦15%としています。
グリコアルブミン値は直前2週間の血糖値を反映しています。
グリコアルブミンが15.8%を超えると新生児低血糖のリスクが上がることが報告されています。
グリコアルブミンが高い場合には食事療法のみではコントロール困難と判断し、血糖コントロール目的に総合病院の糖尿病内科を紹介しています。
食事療法のみで血糖コントロールが悪い場合には、妊娠中には内服薬は使用できないためインスリン療法が選択されます。

妊娠中には妊娠に伴うインスリン抵抗性の増加によって2型糖尿病に近い状態になっています。
分娩後にはそのインスリン抵抗がなくなるため、血糖値は低下傾向となります。
しかし、妊娠糖尿病のなかには妊娠前からの糖尿病の存在も隠れている可能性がありますので、妊娠の影響が消失する分娩後6~12週で糖尿病の再評価を行う必要があります。
糖尿病の再評価には、75gOGTTを行います。
その際の基準値は、一般的な糖尿病の基準値を用いますので以下のようになります。

また、妊娠糖尿病になった女性は、将来の糖尿病発症率が高いことが知られています。
妊娠糖尿病ではない女性に比べると、糖尿病の発症率が7.43倍というから驚きです。
授乳を行うことで糖尿病発症のリスクを下げることができることが報告されています。
赤ちゃんとのコミュニケーションへの好影響もあり、一石二鳥ですので是非頑張ってくださいね。
なるべく早く糖尿病を発見した方が、心筋梗塞や脳卒中、腎機能障害といった重篤な糖尿病に伴う合併症を予防できますので、面倒ではありますが定期的なフォローアップが大事ですよ。
今回は、妊娠糖尿病を中心にまとめてみました。
長くなりますが一読いただくと幸いです。
北くまもと井上産婦人科医院
院長 井上 茂

資格