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コロナ禍での体外受精(新鮮胚移植)

コロナ禍での体外受精(新鮮胚移植)

日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 井上治先生の記事からの引用です。

新型コロナウイルスが体外受精に影響するか調査した報告をご紹介致します。

Human Reproduction, Volume 37, Issue 5, May 2022, Pages 947–953

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によって引き起こされます。 SARS-CoV-2は、細胞受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)および細胞膜貫通プロテアーゼセリン-2(TMPRSS2)を介して標的細胞に入ります。理論的には、ACE2またはTMPRSS2の発現が高い臓器は、感染に対してより脆弱と報告されています。精巣組織にACE2受容体とTMPRSS2が豊富に存在しているため、男性の妊孕能に対するウイルスの影響を調査している研究ほとんどです。

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が、卵胞形成、ステロイド産生、卵の成熟、排卵などの女性の生殖過程に関与しています。 ACE2系とACE2マーカーの存在は、顆粒膜細胞と卵胞液を含む、ヒト卵巣の卵胞成熟のすべての段階で確認されました。 ACE2およびTMPRSS2は子宮内膜でも発現し、着床に影響を与える可能性もあります。

さらに、報告によると他のウイルス感染症と同様に、SARS-CoV-2は酸化剤感受性経路を介して酸化ストレスを促進し、精子の運動性低下とDNA断片化の増加を通じて、男性の妊孕能に影響を与える可能性があります。また、DNAメチル化の変化に関連する酸化ストレスを増加させるメカニズムを通じて卵の質に影響を与える可能性があります。

これらを考慮すると、COVID-19が卵の質や着床早期に影響を与える可能性があります。それにもかかわらず、女性の妊孕能に対するCOVID-19の考えられる影響はほとんど知られておらず、IVFに対する影響もまだ解明されていません。この研究では、新鮮胚移植でのIVFに対する女性のSARS-CoV-2感染の影響を評価することを目的としました。

この報告は、2021年1月1日から2021年6月31日に新鮮胚移植を行なった20〜42歳のSARS-CoV-2感染女性を含む後ろ向きコホート研究です。

方法
研究群は、同じ期間にIVF治療を受けた、過去に感染歴のない初回ワクチン未接種患者と年齢を一致させています。
主要項目として、サイクルあたりの平均採卵数と臨床妊娠率を調べています。また、二次的な項目としては、MII(成熟卵)率(MII /採卵数)、受精率(2PN /採卵数)、および平均凍結胚数でした。SARS-CoV-2感染から採卵までの期間により90日以下、90〜180日および180日以上のグループに分け、妊娠率、受精率、および凍結胚数を比較検討しています。

結果
・すべてのサイクル
研究群の121人と対照群の121人の女性で、SARS-CoV-2感染から採卵までの平均時間は84.5日でした。研究群と対照群では、刺激プロトコール、総ゴナトトロピン投与量、最大E2レベル、および子宮内膜の厚さに変わりは無く、平均採卵数およびICSIサイクルにおける成熟卵の割合の変わりはありませんでした。
同様に、SARS-CoV-2感染から採卵までの期間(≤90、90–180、> 180日)の検討においても、すべての項目でグループ間に差は見られませんでした。

患者の年齢、今までの胚移植回数、SARS-CoV-2感染の既往を含んだ線形回帰モデルによると、採卵数はCOVID-19の影響を示さなかったが、年齢は依然として重要な要因でありました。SARS-CoV-2感染からの採卵までの期間による線形回帰モデルのサブ分析では、年齢は依然として重要な要因でしたが、2群(≤90日および90〜180日)では採卵数に有意差はありませんでした。 多重比較の補正でうすれてはいますが、過去の感染が180日を超えるサブグループ(29人)では、採卵数に悪影響がみられました。

・胚移植を行ったサイクル
COVID群の121人のうち91人、および対照群の121人のうち94人が胚移植が行われ、比較検討されています。

患者背景は両群で類似していました。COVID群で感染したパートナーとワクチン接種したパートナーの割合が高い結果でした。体外受精に関しては、受精法に関してCOVID群でICSI率が高かったが、それ以外は両群で類似していた(採卵数、成熟卵数、受精率、凍結胚数、移植数、グレードAとBの胚)。ただ、対照群ではグレードCの胚が有意に多く移植されていました。臨床妊娠率はグループ間で差はありませんでした。

SARS-CoV-2感染から採卵までの期間により検討したところ、≤90、90–180および> 180日で、妊娠率、成熟卵率、受精率、および凍結胚数は、COVID群と対照群で同等でありました。

妊娠率における多変量ロジスティック回帰モデル(年齢、既往移植回数、移植胚数、移植胚の培養日数、胚のグレード、子宮内膜の厚さ、採卵数、および受精方法を含む)が行われ、過去のSARSの影響は示されませんでした。患者の年齢と子宮内膜の厚さが唯一の重要な要因でした。SARS-CoV-2感染から90日以内に胚移植を受けた患者に適用され、患者の年齢が唯一の有意な変数でした。移植の90〜180日および180日以上前のSARS-CoV-2感染患者のグループは、モデルに含めるには小さすぎました。

まとめ
この後ろ向きコホート研究では、SARS-CoV-2による感染は、IVF治療まで180日未満の感染であれば採卵数、成熟率、受精率、凍結胚数、および臨床妊娠率に関して、新鮮胚移植の結果に影響を与えませんでした。卵母細胞の収量を損なう可能性のある長期的影響(> 180日)が観察されました。ただ、長期的な影響に関しては、さらなる研究が必要です。

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