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無症候性の新型コロナウイルス感染症のmRNAは生殖器系に検出されるか

無症候性の新型コロナウイルス感染症のmRNAは生殖器系に検出されるか

日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 井上治先生の記事からの引用です。

無症候性のSARS-CoV-2感染では生殖器系にmRNAは確認できなかったという報告をご紹介いたします。

Human Reproduction, Volume 37, Issue 2, February 2022, Pages 235–241

SARS-CoV-2は、RNAウイルスで脂質の二重膜を持ちます。このウイルスはアルコール消毒の感受性が高いと考えられています。このウイルスは細胞に侵入のためには、細胞膜とウイルス膜の膜融合が必要となります。ヒト細胞に侵入するために、SARS CoV-2ウイルスは、膜スパイク糖タンパク質を発現し、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合し、TMPRSS2を宿主細胞の侵入活性化因子としてとして使用されます。ウイルスの複製と転写が宿主細胞で起こり、ウイルス感染を引き起こします。

ライディッヒ細胞とセルトリ細胞の両方がACE2受容体を高度に発現し、ACE2とTMPRSS2の共発現は精原細胞幹細胞と精原細胞でみられます。このことにより、ウイルス感染が精巣に害を及ぼす可能性があることを示唆されます。精巣感染とウイルスの性感染のリスクは不明ですが、Liらより38の精液サンプルのうち6つにSARS-CoV-2が存在することや、Yangらより剖検で評価された10人中1人の精巣組織にSARS-CoV-2の存在が報告されています。COVID-19感染後の発熱と炎症は、精子数の減少とDNA断片化の増加につながる可能性もいくつか報告されています。

ACE2とTMPRSS2の共発現は卵母細胞でも観察されますが、SARS-CoV-2が生殖に及ぼす可能性のある影響は不明です。この研究は、精液、卵胞液、膣分泌液、および卵巣髄質のSARS-CoV-2ウイルスを評価するために前向き研究を行なっております。

291人の無症候性患者さんより、卵胞液と膣分泌液からそれぞれ合計106サンプルと163サンプル、122の精液サンプル、 卵巣組織の凍結保存中に収集された残存髄質の3つのサンプルが処理されました。

トリアージ質問票および/またはSARS-CoV-2テストの結果に従って4つのグループを分析しました。
グループ1:トリアージ質問票が陰性または不明で、鼻咽頭SARS-CoV-2検査が陰性(n = 235)
グループ2:トリアージ質問票が陽性で鼻咽頭SARS-CoV-2検査が陰性(n = 20)
グループ3:鼻咽頭SARS-CoV-2検査陽性(n = 20)
グループ4:ステータス不明(n = 119)

4つのグループの卵巣髄質、精液、卵胞液、または膣分泌液のサンプルでは、SARS-CoV-2のRT-qPCR検査は陽性はありませんでした。 ウイルス量・感染性の関連を調査したところ、精子サンプルの内部コントロールのCycle Threshold値が最も高く、精液のPCR感度が低いことを示唆されました。

妊娠率は、新鮮胚移植(IVFおよびICSIサイクル)およびIUIを行った4つのグループで評価され、差異は観察されませんでした。

<まとめ>
無症候性患者の卵巣髄質、精液、卵胞液、または膣分泌液のサンプルからSARS-CoV-2 のmRNAは検出されませんでした。

不妊治療クリニックのスタッフはCOVID-19ワクチンの接種を受けていることが多く、ワクチン接種を受けた患者さんやCOVID-19のIgG陽性の患者さんに対する検体の取り扱いにおいて、追加の安全対策を実施する必要はないのではないかと書かれていました。

ただ、症状のあるすべての患者さんはART開始時またはART中にキャンセルになっているため、鼻咽頭SARS-CoV-2検査陽性者は20サンプルのみで小数名でした。トリアージ質問票も研究参加者間でタイミングが異なっており、精度が問題となります。
ARTクリニックでさらなる緩和措置を実施できる可能性を検討するために、さらなる研究が必要となるでしょうと締めくくっていました。

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