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日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 井上治先生の記事からの引用です。
亜鉛は、身体機能に必要な必須微量元素です。亜鉛不足は、人体に異常を引き起こす可能性があります。世界保健機関(WHO)は、世界の人口の3分の1が亜鉛を欠乏していると推定しています。
身体の成長や、胃腸、免疫機能、抗炎症作用に重要な役割を果たしています。亜鉛が不足すると感染症にかかりやすくなり新型コロナウイルスの予防や治療にも使われることがあると報告されています。
今回この亜鉛と妊娠についての報告がありましたのでご紹介いたします。
2021年 International Journal of Molecular Sciences 22(4): 2188.
亜鉛は通常の受精に必要であるため、男性と女性の両方の生殖能力に不可欠です。精液中の亜鉛含有量は血液中の亜鉛含有量の85〜90倍あり、精子を細菌の攻撃から保護することが示されています。亜鉛は、精子が女性の体に入ると、盾のように守り、染色体の損傷を防ぎます。また、精子の受精能獲得、精子と透明帯との結合、先体反応、透明帯への浸入、精子と卵の結合、活性化、および最終的な透明帯反応に関与すると報告されています。
男性側では、亜鉛が初期精子形成(生殖細胞から精子細胞まで)、精巣上体での精子細胞の成熟、精子の運動性に関与しております。亜鉛は、テストステロンの産生、貯蔵、輸送において主要な役割を果たしており、亜鉛濃度が低いと、精子の質が低下するという報告があります。亜鉛に葉酸を加えて服用後に精子数の増加が精子減少症の患者さんで観察されましたという報告があります。
女性側では、ラットモデルによる研究では、亜鉛が不足した餌をラットに与えると、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)の濃度が低下・抑制することがわかっており、亜鉛が重要であることがわかります。
また、精子が女性の体に入ってくると多くの免疫応答が活性化されますが、亜鉛はそれを調整します。
受精する際、卵細胞内のカルシウムイオン濃度の反復的な上昇が起こることにより、卵が活性化し、その後の発生にも影響を及ぼすのではないかといわれています。この反復するカルシウムイオンの上昇に亜鉛が関係しています。
また、多精子受精にも関連しているようです。卵には精子が多数受精しないように、1匹精子が受精した後は、それ以降精子が入ってこないようにバリアします。亜鉛は、受精卵の近くに存在する他の精子の無能力化に重要な役割を果たす可能性が報告されています。
<まとめ>
亜鉛の食事摂取は、男性と女性の両方の生殖能力に重要な役割を果たします。人体は亜鉛を貯蔵できないため、特に生殖年齢の男性と女性にとって、食事やサプリメントによる摂取が体の代謝を維持するのに重要です。