北くまもと井上産婦人科医院

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PCOS患者さんの1親等において代謝障害の有病率が増加する

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)とは、若い女性の排卵障害では多くみられる疾患で、卵胞が発育するのに時間がかかってなかなか排卵しない疾患です。頻度は女性の20人にひとりと言われており、決して稀な疾患ではありません。

自覚症状としては、

(1)月経周期が35日以上

(2)月経が以前は順調だったのに現在は不規則

(3)にきびが多い

(4)やや毛深い

(5)肥満   などです。

PCOSでは、超音波で卵巣をみると10mmくらいの同じような大きさの卵胞がたくさんできて卵巣の外側に1列に並び、なかなかそれ以上大きくならないことが特徴で、ネックレスサインと呼ばれます。

また、PCOSではインスリン抵抗性を背景としたメタボリックシンドロームの発生率が高く,心血管病変の予防のために長期的な健康指導の必要性が強調されています。

 

PCOS患者さんの家族は大丈夫?

上記の様に、PCOSの患者さん本人はインスリン抵抗性を背景としたメタボリックシンドロームのリスクについては報告されています。ちなみに、糖尿病の境界型や、高血圧、脂質異常症、肥満などは糖尿病の発症や心臓や血管の病気につながりやすく、こうした生活習慣病の前段階を包括してメタボリックシンドロームといいます。

では、PCOSの患者さんの家族には影響はないの?ということで論文を探してみました。

 

家族にもPCOS患者さんの1親等(両親、姉妹、兄弟)において代謝障害の有病率が上がるのではないかという報告です。

2018年のFertility and Sterility
“Metabolic syndrome, hypertension, and hyperlipidemia in mothers, fathers, sisters, and brothers of women with polycystic ovary syndrome: a systematic review and meta-analysis”
をご紹介いたします。

この報告は19件の論文をまとめて解析したものになります。

多発性嚢胞卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢の女性の4%〜19%に認め、生殖・代謝に関連しています。しかし、PCOSの病因は不明ですが、遺伝子、民族、環境、生活習慣の複雑な相互作用による病態と考えられています。

PCOは、双子の間で80%の一致しており、1親等での高い遺伝性に加えて、多くの研究が代謝異常の有病率の増加を実証しています。
今回の報告は、PCOS患者の1親等におけるメタボリック症候群、高血圧、脂質異常症および他の代謝疾患の有病率の調査するため系統的レビューおよびメタ分析を行っています。

<結果>
PCOS女性の母親では、メタボリック症候群と脂質異常症の有病率が有意に高かった。
PCOS女性の父親では、高血圧、メタボリック症候群と脂質異常症の有病率が有意に高かった。
PCOS女性の姉妹においては、高血圧およびメタボリック症候群の有病率が有意に高かった。
PCOS女性の兄弟においては、高血圧の有病率が有意に高かった。

<結論>
このメタアナリシスは、PCOS女性の母親、父親、姉妹、および兄弟が、メタボリック症候群、高血圧、および脂質異常症のリスクが高いことを報告しています。したがって、PCOSの診断は、代謝障害に関して、発端者だけでなく、父親、兄弟、特に母親および姉妹の徹底的なレビューを開始すべきである。しかし、サンプルサイズが小さく明確な対照を用いた大規模な前向き研究が必要であると結論付けています。

 

<まとめ>

東アジア系では高アンドロゲン血症でも多毛を来さない例も多く、欧米の診断基準での報告であり、この報告がそのまま日本に置き換えられるかは検討の余地があります。
しかし、PCOSが、遺伝、民族、環境、生活習慣の複雑な相互作用によるものと考えるなら、1親等での代謝障害も増加して不思議ではないかもしれません。
日本やアジアでの検討も待たれます。

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